まんが出来ないのだそうです。おばあさんとそうだんをして、東京で給仕でもして、夜学に行って勉強したいのだそうです。
 金井君がシャツを持って来ました。
 おとうさんはちょうど八王子にたずねなければならない人があるからといって、その子といっしょに出かけて行かれました。
 おかあさんはむしパンののこりを紙につつんでその子に持たせました。とてもよろこんで、その子は何度もおじぎをして行きました。僕は金井君と話しました。
「おとうさんやおかあさんがなくなって、あの子、かわいそうだね」
「うん、だけど、あの子はきっといい人になるね」
 金井君はそういいました。
 僕はおとうさんが、あの子について行って下さったのがとてもうれしかったのです。おとうさんはあの子と電車にのっていろいろなことを話しているでしょう。静子は時計ばかりみていて、おとうさんは何時ごろかえるかしらとそればかり気にしています。
 おとうさんは夜おそくかえって来ました。僕たちがお寝床をしいている時に、
「かえったよ」といって玄関があきました。僕も静子も走って玄関に行きました。
 おとうさんは竹の子だの菜っぱだの持ってかえりました。
「とて
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