しています。僕がその子と学習院のところで会った話をすると、おとうさんは、
「そりゃアいいことをした」
 とおっしゃいました。
「君、いくつなの」
 おとうさんがのこぎりを持ったままたずねました。
「十三です」
 何となく元気がありません。おかあさんは、ちょうどおやつをつくりかけていたので、とむしパンをつくっていました。
 男の子は、風呂敷の中から黒い米を出しました。
「これを煮たいのですが、なべをかして下さい」
 といいます。
「そんなもの出さなくてもいいよ。いまパンがふけるからそれを食べて、それからおじさんが八王子に連れて行ってあげよう」
 と、おとうさんがいいました。金井君は、この子の着ているシャツよりはましなのがあるから、お家でもらって来るといって走ってかえりました。
 やがてむしパンが出来ました。大きいむしパンを手にして、その子は顔をあかくしていました。
「遠慮しないでお上り」
 みんながすすめて、やっと、その子はむしパンを食べはじめました。桶屋さんはいい人たちだけれど、この子は桶をつくることはきらいなのだそうです。どんなに好きになりたいと思っても、あの桶の音をきいているのはが
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