さしています。だって、そのころ、誰かが黒板に、山本先生の栄養失調って落書していたからです。先生は落書をごらんになって、頭をかきながら、
「ひどいなあ」
と笑っていらっしゃいました。
ところが、おかしいことに、僕のおとうさんにも左の耳の上に小さいはげが出来ました。床屋でうつったのかなって心配していらっしゃいます。山本先生のも、僕のおとうさんのも、その、はげは、大きくも小さくもならないのでふしぎです。人にもうつりません。
おとうさんは先月からお仕事がみつかって会社へつとめておられます。おとうさんは、まじめに働きさえすれば、いまにきっといいことがあるとおっしゃいます。
11[#「11」は縦中横]
金井君は疎開さきから、みんなで東京へかえった時、東京があんまり焼けているので、涙がこぼれて眼がまんまるくはれあがってしまったそうです。上野駅でお迎えのおかあさまとねえさんに抱きついて、しばらくおいおい泣いていたそうです。なつかしいおかあさまのきものの匂いがとてもうれしかったといいました。
「みんなやせてかえったんで山本先生が申しわけないとおっしゃったよ。でも、山本先生も、とても
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