「そんなことないよ、たくさんきてたよ。米だって何だって買って行ったよ。だから、僕たちも、千田君たちと、先生にだまってキウリを買いに行ったんだよ。なまのキウリ、うまかったぜ」
「ほう、子供にも売ってくれたの?」
「そうさ、金さえ出せば誰にだって売るよ」
「そうなのかえ、驚いたねえ」
 僕は田舎で苦しんだ金井君がかわいそうでした。金井君はとても正直な人です。こんどの敗戦のことも、軍人っていけなかったんだね、とがっかりしています。僕だって、おとうさんはいい人なのに、どうして大人の人ってうそつきなのか変です。
 うそつきでないといえば、山本先生もいい方です。先生はこのごろ、つぎはぎだらけの洋服で来られますけれど、先生はどんなにびんぼうしていても、いつもにこにこして僕たちの友だちのようです。
 去年の暮、僕の畑で出来た小さい大根を山本先生に持って行ったら、山本先生は、
「そんな心配するなよ」
 とおっしゃいました。
 僕がつくったのを持って来たんだというと先生は、
「そうか、そりゃあうれしいなあ」って顔をあかくされました。
 先生は、このごろ頭に小さいはげが出来ました。みんな栄養失調だとうわ
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