た。いっぺん僕のお家の庭に焼夷弾が落ちました。おかあさんは、すぐ消しに行かれました。ぱあっと光が射して、あたりはまるで大雨のような音がしました。
おかあさん逃げましょうといいますと、おかあさんは「いいのよ、いいのよ、こうしていましょう。逃げて煙に巻かれると、かえっていけないからね」とおっしゃいました。
あの時のことをいろいろ思い出すと、まるで夢のようです。僕のおかあさんはとても元気でした。僕が泣きだすとおかあさんはとてもひどくおしかりになりました。
2
おとうさんがかえっていらっしゃって、僕たちはみんな元気になりました。おとうさんもたのしいのでしょう、よく口笛を吹きます。僕も、おとうさんのまねをして、口笛を吹くことが上手になりました。[#「ました。」は底本では「ました、」]おとうさんがかえっていらっして二三日してからのことです。あんまりお天気がいいので、麻布の要さんの家へ行くことにしました。要さんは中学生です。要さんのおとうさんは、僕のおとうさんの一番上のにいさんです。僕たちを一番かわいがってくれます。このおじさんは早くから僕たちに田舎へ行きなさいといっていましたが
前へ
次へ
全79ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング