胸がどきどきしました。
ぺったんこ、ぺったんこと餅をつく音がきこえてくるようです。
玄関で誰かが呼んでいます。おとうさんがおかあさんを呼びました。
「いまごろ、きみがわるいわね、誰でしょう」
時計が九時を打ちました。
おとうさんがすくっと起きて玄関へ行かれました。
「そりやア心細かったでしょう、まア、お上り下さい」
誰かをおとうさんがあげているようです。おかあさんも出て行かれました。僕は誰だろうと耳をすましていました。
「お互にひどいめにあいましたね。寒かったでしょう、さア、どうぞ――」お客さまの声はきこえない。
「まア、大きいお魚、黒鯛ですわね」
おかあさんの声。お魚を持ってきたのかしら。こんなにおそくお魚を持ってくるなんて変だな、どこの人なのだろう。僕は何だかこわいなと思いました。
7
朝起きたら、だいどころに、大きい黒鯛がかごのなかにありました。僕は、こんな黒いおさかなをみるのははじめてです。
「立派だなア」
と僕がいいますと、宏ちゃんも起きて来て、びつくりしています。お座敷では、もうお客さまが朝ごはんをたべていました。誰だろうと思っていたら、静子が
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