「いくつかって、おとうさんの年かね、そうだね、もうじきとしを一つとるね」
「いまいくつですか?」
「いまは三十四だ」
「まだ若いのですね」
「ははア、そりあ若いさ、でも、もうすぐ三十五だよ」
「僕もおとうさんのように早く三十五になりたいなア」
「うん、健坊が大きくなる頃は、いい時代になるだろうね、健坊はえらい人にならなくてもいいから正直なこころをもったいい人になるんだね」
 おとうさんは、僕の肩に、寒くないようにお蒲団をかけてくれました。次の間で、おかあさんが、
「ねえ、三升ほどもちごめがたまりましたから、餅をつきましょうかしら」と、おっしゃいました。
 僕はうれしくて、へえ、といいました。
「おとなりで、お餅の道具をかりて来るんですって、ごいっしょにつきましょうとおっしゃって下さるのよ。少しばかりだけれど、子どもたちがよろこぶでしょうから‥‥」
 おとうさんは、「そりやアいいね、たとい少しでもいいさ、子どもたちがよろこぶよ」と、いいます。
「いつ餅をつくの?」僕が寝床からたずねると、
「三十一日ですって、健ちゃんも手伝ってね」
 と、おかあさんがおっしゃいました。
 僕はうれしくて
前へ 次へ
全79ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング