おとなりの吉田さんのおじさまなのよ、とおしえてくれました。
 吉田さんのお家には、子どもはいないのだけれど年をとったおばあさんがおられるので、早くから宇都宮へ疎開して、もうおとなりには安藤さんという人たちがひっこして来ています。吉田さんは、宇都宮でお家がやけたのだそうです。こんなことなら、東京にいた方がよかったのだ、と吉田さんは残念そうにしていました。
 吉田さんのお家では、おばあさんもなくなられたのだそうです。とてもいいおばあさんで、目の悪いひとでしたけれど、僕たちが裏庭に入って行くと、ちゃんと僕を知っていて、夏なんか、よくおばあさんにあきかんだの木箱だのもらいました。かんからをもろうと、それでメダカをすくいに行ったものです。
 木箱は、蝶蝶の標本箱にしました。
 おばあさんは、田舎の人なので、花や草の名前はよく知っていて、僕が持って行く草の名前を何でもおしえてくれました。いつだったかおとうさんと信州の山へ行って、たくさん、草を持ってかえって吉田さんのおばあさんにききました。
 まんさくだの、かしわの葉、あかしで、いぬしで、いぼた、白い花の咲くがまずみ、うつぎ、赤い花の咲くはこねうつ
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