ゆかない。
 すると、一人、優さしそうな女の驛員が、その改札のところへ來た。巖ちゃんはびっくりして、改札口から離れた。ちょっと、あの女驛員にたのんでみようと思いついた。
 巖ちゃんは、學校でならった、民主主義と云うことをふっと思い出したので、顏をまっかにして、
「あのう……。」
 と、もどもどしながら、その女驛員に近よって行った。そして、新宿驛からのことを話そうとしたのだけれど、女驛員はみなまで聞かないで、默ってさっさと行ってしまった。巖ちゃんは涙ぐんでしまった。
 どうしたらいいのか、てがつけられない感じだった。どうも、僕は話がくどくて、下手くそだな……巖ちゃんはそう思った。仕方がないから改札を飛び拔ける工風をこらすより仕方がない。
 人垣を押しわけて、盲目のひとのところへ戻って行くと、二人は、眞黒い代用パンを半分こにして食べている。一つしかパンを持っていないらしいので、巖ちゃんは二つのパンを出して、盲目のひとに一つずつ上げた。
「いえ、何とかなるから、それだけはいけないですよ。坊ちゃんも腹が空いてるンでしょう。やめて下さい。ほんとにいけません……。」
 行列はだんだん長くなっている
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