見えなくなったのでとても困るとこぼしていた。
「煙草が吸いたくても、もう四日も吸わないし、第一、コロナだの、ピースなンて高くて買えゃしないからね。頭がふらふらですよ。」
兵隊だったと云う、盲目のひとが淋しそうに笑って云った。――まだ相當時間があるので、巖ちゃんは、二人をそこへおいとおいて、うまくホームへはいってゆく研究をしてみた。ホームは、いまのところではがらんとしている。右手の隅の方に驛員の出はいりしている改札口があった。
よおーし、あすこから、そっとはいって、二人を汽車に乘せてやろう、巖ちゃんはそう考えて、しばらく、そこをうろうろしていた。だんだん、胸の動悸が激しくなってくる。煙みたいに、すっと入れるという、科學は發明出來ないものかと思ったりした。
その改札口が金城鐵壁のようにおそろしく見えてくる。一寸法師になれないかな……。巖ちゃんはいろいろと考えていた。すると、一人のアメリカ兵がさっさと來て、その改札を乘り越えてホームの方へ行ってしまった。英語でもべらべらと出來たら、盲目のひとのことを頼めるのだがなと、巖ちゃんは殘念で仕方がない。
いまから、急に、英語をしらべるわけにも
前へ
次へ
全11ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング