」
お粒は興ざめた顔で鉢植の蔭から出て来ると、寝呆けたやうな女達の椅子の中へはひつて行つた。
女達は、お粒の変にからんだ高話をきいてゐたが、恰度、直子がふつさりとした髪の毛に綿雪をつけたまゝ這入つて来たので、そのまゝまた雀をどりの唄をつゞけるのであつた。
「お楽しみ!」
「‥‥‥‥」
「お直さんは外まで商売繁昌で、中々おうらやましい事ですよ」
お粒の尖つた物の云ひぶりだ。直子は沈黙つたまゝ壁鏡に向かひ、ハンカチで頭髪の綿雪を拭きながら、背を射てゐるお粒の眼を痛く心に感じた。
「お直さん! さつきは牧さんからのお電話でせう?」
「‥‥‥‥」
「オヤ! まア、何時お直さんは唖ンなつちやつたの?」
「それとも、私なンかには今後ものを云はないカクゴでゞもおいでなンでございますか?」
かうなると、女達も雀の唄どころではない、酔ひが程よくまはつて来たお粒を囲んで、てんでに、「まアいゝぢやないの」と止めるばかりであつた。止められれば止められるで、お粒はいつそう腹が立つて腹が立つて直子から一言でも何かいはせなければとあせつて来るのである。
「酔つぱらひの女だと思つて馬鹿にしてるの? いくらでも
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