のミュズに火を点じた。

 7 ――どんなになるかもわからないけれど、まだ生きてはゐます。一度、あなたに会ひたいと思ひながら、本意なく過ぎてゐます。この儘過ぎて行く事が恐い‥‥元気でゐて下さい。――雪がすつかり溶けてしまつた日、せん子は直子からこの様な手紙を受けとつた。子供があると云ふ境遇も似てゐたし、病身な夫を持つてゐたと云ふ事も同じであつた事から、せん子にだけは、直子は何でも云へるのであろう。せん子はせん子で、直子がゐなくなると、妙に、考へる事が多くなつた。
 料理店リラのこのごろは、お粒が静かになつたのと一緒に、ひどく雰囲気がめいつて見えた。

 今日もまた、雀をどりの唄が、女の唇から流れて来ると、地声の大きい操が、サトミや百合子の傍で悲鳴をあげてゐる。
「こんだけの沢山の女給と云ふものが、どンなになつて行くンでせうねえ。――私、昨夜、たうとう、ホラあの男と大森へ行つちやつたのよ、笑ふ? だつて仕方がないンだもの――」
 百合子は眼を円くしてゐた。
 サトミは冷いセルロイドの櫛で、百合子の断髪をくしけづつてゐた手を止めた。
「私生きてゐたくないわ。誰でも相手になつてくれる人があつ
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