たら死んでしまひたい」
 夜になると、それでも料理店リラの内部は女のゐるなみに賑やかになつて、カンシャク玉なんぞが客のボックスの中から弾けてゐた。
「その男と来たら×××××××と来てるぢやないの、だもンだから一晩中私をいぢめてンのよ。いつそ結婚媒介所へでも行つてマネキンになつた方がいゝ位だわ」
 操は、円い眼をクリクリさせて、さとみをつかまへて離さない。取りつき場もない程、すれつからしな風に見えて、芯は気弱なのかも知れない。
 誰も彼も気弱な癖して自分に塀を囲んでゐるのであつた。その塀の中から、犬のやうな虚勢でもつて、誰彼となく吠えたてゝゐるのだ、塀をとつてしまへば、誰だつて、天真な美しい花園を持つてゐるのではないか。
 ジャズのレコードが、十枚もまたふえると一緒に、さくらと云ふ女と、澄子と云ふ新しい女が這入つて来た。
 さくらは三度目だといつてゐたが、澄子は始めてらしく、まだ肩揚げの似合ひさうな美しい少女であつた。――料理店リラの内部もまた女が変つて行くたびに客の筋もはじからはじから違つて行つて、このごろでは学生の校歌をうたふ唄が、リラの鎧戸風な窓から漏れてゐた。
「百合子さん、指
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