‥‥」
6 空がカラリと晴れてゐた。
広告飛行機が雪解けの銀座の舗道に風船を撒いて飛翔してゐる。
料理店リラの前の、赤く塗りたてた自動電話で、ながいこと、ガチヤガチヤ電話をかけてゐた男があつたが、何時までたつても、思ふやうに電話がかゝらないのか、男は荒々しく扉を蹴つて、まだ軒灯もつけてゐないリラの緑硝子の奥へ這入つて行つた。まだ三時頃なのでゝもあらう、店にはミサヲと百合子と二人きりで新聞を読んでゐた。
「まア早い、岡田さんどうしたンですか?」
「どうしたつて、かうしたつて、大変なンだよ、直さんは昨夜こゝへ出てゐた?」
「いゝえ、昨日は公休を取つたンですよ。どうかしたンですか?――牧さんとどつかい行つちやつたンでせう。ぢやない?」
ミサヲも百合子も眉も顰めながら、ひどく心にかゝる風であつた。
「今朝、牧の奥さんから電話なンだ。大将昨夜たうとう帰らないンだよ。初めての事なンで奥さん吃驚しちやつたンだらう」
「まア、さうですか! 間違つた事がなきやよござんすがね」
「大丈夫だとようござんすがね」
「さうさ‥‥二人で遊山に行つてたンさと、軽くいく奴なら心配はないンだが、――おとついの
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