てゐるものなのね。――ひとつには、あの牧さんをお直さんに取られたつて気持ちなンでせうが、根がゲスなやりくちだから――駄目なこと判りきつてツぢやないの」
百合子もサトミも、思はずお粒の方を振り返つた。
「あゝ‥‥たまンないわね、皆、同じやうな女がそろつてゐて、意張つたり、意張られたり‥‥」
「牧つてひと、何するひとなの?」
「あら、T大学の先生よウ」
「随分すつきりした人ねえ」
「お粒さん張りしたつて駄目よウ」
百合子の薬指には、また何時の間にかあのオパルの指輪がはまつてゐた。頬や髪をいらふたびに、オパルの石が、淡くキラキラと光つてゐる。
泣くだけ泣いてしまつたあとのやうに、戸外はそおッと雪がつもつてゐるきりで、空は晴れてゐた。たゞ舗道の上だけは雪が掃いてあるので、ひどく歩きよかつた。せん子は直子に寄りそつて、何時までも悲しみのをさまらない気持を、お互に感じあつてゐる。
「随分、人を馬鹿にしてるぢやないのツ、貴女がおとなしいからよウ、あンな時、何か云つてやるといゝンだのに‥‥」
直子は怒りと悲しみに体がガタ/\震へてゐた。
「私、今晩キリで止めようと思つてゐたところなンですの‥‥
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