笑つてゐた。だが笑つてはゐるものゝ、心のうちでは何も彼も佗びしく浅ましく思へてしようがなかつた。――三人の男達は大分酔ひがまはつたらしく、時々直子の方を向いては何かヒソヒソと語りあつてゐる。
「ベッピンぢやないか」
「あれで、子供があるンだつて?」
「まるで娘だねえ、亭主が、へえ‥‥赤い方でやられてるツて口ぢやないのかい」
「未亡人だつて? そりやア可愛さうだね」
 洪水のやうに湧きかへつて、時々思ひ出したやうに男達は声をひそめる。
 お粒が、唇元に下品な皺を寄せて操と笑ひあつてゐた。――その汚い言葉の矢が、ハツシと直子の胸を射て来る。直子は急に胸の中が熱くなると、ゐたたまらなくなつて、足早やに扉を押してまた、雪の降つてゐる外へ出た。
「直子さん! 一寸待つてツ! 直子さんたらツ」
 せん子が、直子を追つて外へ出ると、一時ワアツと笑ひ声が湧きあがつたが、すぐ花火のやうに消えてしまつて、森となつた。さすがに、森となると、何か妙にキマリの悪い思ひがして、操は子供つぽい冗談をいつては座を濁してゐた。

「随分、あのお粒つて女、意地が悪いのねえ、たまンないわ、あンなの‥‥どんなところにも悪型つ
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