くても、わかっているのに。ほんとに、お前さんみたいに、世話の焼ける人ったらありゃアしない。さ、これでお拭きよ」
ポンと投げて渡したふきんが、右近の顔に当たる。そいつを無造作《むぞうさ》に掴《つか》んで、そこらをふいている可愛い男の顔を、お絃は、食べてしまいたそうに、うっとり見惚《みと》れていようという、まことに春風駘蕩《しゅんぷうたいとう》たるシインだ。
が、お絃はちょっとしんみりして、
「でも、ほんとに、今日あたり、喧嘩の一つも持ち込みがないと、困るねえ」
「まったくだ。こんなにアブレつづきじゃア、第一、からだが痩《や》せちまわア」
喧嘩渡世だけに、夫婦の愚痴《ぐち》も変っている。
そこへ、ガラッ! 威勢《いせい》よくおもての格子《こうし》があいて、聞き慣《な》れない人の訪《おとず》れる声がする。
「御めん下さい。喧嘩屋さんはこちらでございますか」
喧嘩屋と来た。
ソラ来た! と、ホッとした顔を見合わせた右近とお絃――さかずきを置いた右近は、そら見ろというように、ちょっと舌を出して、笑いながら右の腕《うで》を叩《たた》いた。
お絃は、上《あが》り口のはしへ、からだを捻《
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