ね》じ向けていた。
「はい。こちらはそのお訪ねの家でございますが、あなた様は、どちらから――?」
「喧嘩の先生は御|在宅《ざいたく》でございましょうか」
いうことが一々変り過ぎてる。
喧嘩の先生には、さすがのお絃も眼をぱちくりさせて、
「はい、右近さまなら、ここにおいでですが――」
「そりゃアよかった。あっしは下谷黒門町の左官職、壁辰てエ者でございます」
言いながら、外から、上《あが》り框《がまち》の障子をあけるのと一|拍子《ひょうし》に、茨右近は、もうスックと起《た》ち上っていた。
「爺《と》ッつぁん、何だい、エおう、喧嘩かい」そして、ゆっくりと、「待ってたぜ」
「何だねえ、お前さん、はなしも聞かないうちから」
お絃が、たしなめるように、うつくしい眉《まゆ》をひそめた。
お絃の笑い顔が、戸口へ向った。
「黒門町さんでいらっしゃいますか。サ、マ、お上りなすって」
壁辰のうしろに同伴者《つれ》らしい人影がうごいた。
三
飛んで火にいる夏の蟲――といったところで、その夏の蟲が、神尾喬之助なんだから、そう容易《やすやす》と捕《と》られもしなかったことだろうが、と
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