与力《よりき》達と押し問答をしていた壁辰が、大きな声でこういうのが聞えた。
「はッはッは、この黒門町を怪《あや》しまれるなら、どうぞおはいりなすって、本人を御らんなすって下さいまし」
「はいるなと言っても、はいるのだ」
満谷剣之助が、金山寺屋の音松ほか二、三人の捕吏《ほり》と、あるじの壁辰をつれて、ドヤドヤと茶の間へ踏み込んで来た。
お妙が、喬之助の前に、庇《かば》おうとするように立っていた。壁辰は、部屋の真ん中にドッカリすわりこんで、がッしと腕を組んだ。四、五人の捕手《とりて》が、十手をひらめかして喬之助へ打ち掛ろうとした。
すると、金山寺屋の音松が、喬之助を見て、頓狂《とんきょう》な声を揚《あ》げたのだ。
「お! こりゃア喧嘩渡世《けんかとせい》の旦那じゃアござんせんか――何《なん》ぼ酔狂《すいきょう》でも、そんな妙ちきりんな服装《なり》をしていなさるから。いやどうも、茨右近《いばらうこん》さまにかかっちゃアかないませんや」と、急にヘラヘラ笑い出して、すぐ呆気《あっけ》に取られている満谷剣之助へ向って、「旦那、これあ眼違《めちげ》えだ。このお方は、あのそれ、神田で名打ての喧嘩
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