辰はここだが、今頃、何誰《どなた》ですい」
何ごころなく、雨の奥をすかし見るように覗《のぞ》いたとき、そこの路地のかげから、一度に雨に濡《ぬ》れた御用提灯の集団《かたまり》が、押し出すように現われて来た。物々しい捕手の一隊だ。四、五十人――もいたろうか。他にもぐるりとこの家をとりまいているらしく、一同落ち着き払った様子で、八丁堀の与力《よりき》で満谷剣之助《みつたにけんのすけ》という、名を聞くとばかに強そうな人が、金山寺屋《きんざんじや》の音松《おとまつ》という眼明《めあか》しと、ほか五、六人の重《おも》立った御用の者をつれて、どやどやとはいりこんで来た。
先方も落ちついていたが、壁辰は、より以上におちついていた。彼は、ちょっとうしろを振り返って、素早くお妙に合図した。お妙も、その非常に、決してとり乱すようなことはなかった。しずかに茶の間へ行って、喬之助の前にすわった。喬之助は、もう知っていた。瞬間、血走った眼が部屋の中を見廻したが、どうせこの家の周囲《まわり》は十重二十重《とえはたえ》であろうと思うと、かれは、起とうとした膝を鎮《しず》めて、眼のまえのお妙を見た。お妙は、きちんと
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