! 十手を抛り出して、壁辰はにっこり[#「にっこり」に傍点]したのだった。
「おい、お妙、乙《おつ》なことを言うぜ。背中の児に浅瀬《あさせ》を教わるとはこのことだ」と、そして、お妙の背をさすって、「もういい、笑え、笑え。父《ちゃん》も、年をとったら気が短くなってナ――ねえ神尾さま、あなたも一つ笑って下せえまし。笑って、まアゆっくりとお話を伺おうじゃアありませんか」
 別人のよう、自分から先に立って茶の間へ通り、ぴったりすわって、にこにこ[#「にこにこ」に傍点]しながら喬之助を振り返ったから、喬之助も、きまりが悪い。
 抜いていた蛇丸《じゃまる》の短刀を鞘《さや》に返して、殺気走っていた顔を持前のやさしさに戻すと同時に――かれは、不思議な気がしてならなかった。
 どうしてこの娘は、見ず知らずの自分のために、そして江戸で評判の追われ者となっている自分に、その科人《とがにん》と知りながら、こうまでつくしてくれるであろう? いまの言葉によれば、自分を思っていてくれる――とのことだが、もしそれが父の十手の鋭鋒《えいほう》を鈍《にぶ》らすための、単なる一時の方便《ほうべん》でなく、ほんとにじぶんに
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