決して間違っていたとは思っていない。しかし――しかし、である。お妙も言った通りに、喬之助は、この壁辰は十手を預っている。ここは岡っ引きの家だと知って、飛び込んで来たわけではないのだ。じっさい一時、左官屋の職人にでも化け込んで、そのきびしい探索《たんさく》の眼を逃れようと思って、さてこそその獅子《しし》の口へ、みずからはいり込んで来たのである。窮鳥《きゅうちょう》ふところに入れば猟師もこれを殺さず――そんなむずかしい言葉は知らないが、お妙の言ったそんなような意味のことが、ハッタと壁辰の十手を叩き落としたのだ。そうだ。自分がいまこの士を捕《と》ったところで、そりゃア何もおれの手柄になることじゃアねえ。それに――それに、娘も、このお侍を思――えエッ! そ、そんなこたアどうでもいいが、壁辰も男だ、ここは一番眼をつぶって、神尾喬之助を落してやるなり、また何かの相談に乗ってやるなりするとしよう。じぶんの手一つで手塩《てしお》にかけた一人娘のお妙の頼みである。まかり間違えば、おれが自分で、われとわが身に繩を打てば済むのだ――と思ったから、そこは、解りの早い江戸ッ児だ。黒門町だ。たちまちそこへ、ガラリ
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