った。茶の間の長火鉢をへだてて、壁辰と喬之助がすわっていた。お妙は、父親の壁辰のうしろに隠《かく》れるようにして、もじもじとうつむいていた。
 いま、三人で夕餉《ゆうげ》を済ましたところである。喬之助と壁辰が、ぽうっと眼のふちを赤くしているのは、食前に、お妙の酌《しゃく》で、さしつ差《さ》されつしたものであろう。もうそんなにも、他意《たい》なく打ち解けていた三人であった。
 壁辰が、喬之助めがけて振り上げた十手を、さらりと打ち捨てたからである。
 あの、血を吐《は》くようなお妙のたんか[#「たんか」に傍点]――「お父《とっ》つぁん、十|手《て》、十手、十手というものは、血も涙もないんでございましょうかねえ――しっかりして下さいよ。この人は、あたしの好《い》い人じゃアありませんか」という、あれが、恋は弱い者を強くし、強い者を弱くする、弱い娘の口からこの強い言葉が吐き出されたばかりに、それには、強い壁辰のこころを弱くするだけの、まさに千|鈞《きん》の重みがあったのだ。錐《きり》のように、父壁辰の胸をもみ抜いたのだった。壁辰とても、御用十手を預っている自分が、喬之助を召し捕ろうとしたことが、
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