恋を感じているのだとすれば――それはまことに困ったことである。自分には、元はと言えば、そのことから、戸部近江之介と鞘当《さやあ》てになって、こんにちこんなようなことになったほどの、伊豆屋の娘のお園、改名して園絵という、思い思われた妻があるのである。近江の首を取って以来、こうして公儀《こうぎ》の眼を逃れて潜行《せんこう》しているのも、大体はさっき壁辰に話した通り、大迫玄蕃以下十六人の首を狙《ねら》うためではあるが、一つには、あの園絵という女《もの》があるばっかりに、自分はいま、死んでも死ねない気がするのだ。去年の暮れに一|緒《しょ》になって、築土《つくど》八|幡《まん》に家を持ってやれよかったと思う間もなく、ついに自分が我慢《がまん》し切れずに、あんな出来事が起ったのである。あれからこうして所在《ありか》をくらましているあいだも、寝る間も忘れたことのない園絵のおもかげ――それほどの園絵というものが自分にあるのに、それを知らずに、この娘が自分を恋しているとすれば――そして、そのために自分が、壁辰の十手と、近処《きんじょ》の注意から救われて、あやういところを助けられたとすれば――とりも直さず
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