いようで、妙に速い歩き方である。間もなく、それとなく待っていたらしい平淡路守と一緒になって、ちょっと両方でおじぎしてははは[#「ははは」に傍点]と低く笑った。並んで歩き出す。
友達らしいのである。
「上《じょう》々の天気で――」
言いかけて、淡路守はあとを濁した。同伴《つれ》の士《ひと》は、面白そうににっこり[#「にっこり」に傍点]して、
「何よりの幸《さいわい》です。しかし、それはあくまで今日の天候のことでございましょうな。それとも上様の御|機嫌《きげん》――」
「あはははは、そこまで仰言《おっしゃ》っては――両方でござる。両方でござる」
いま、将軍吉宗に拝して、年始《ねんし》の礼を述べて来たところである。年の変ったゆったりした気もちが、何か冗談の一つもいいたいように、二人の胸を軽くしていた。
「越州殿はお人が悪い。こりゃすこし、向後《こうご》口を戒めると致そう」
この淡路守の相手は、大岡越前守《おおおかえちぜんのかみ》なのである。江戸南町奉行大岡越前守|忠相《ただすけ》である。老中、若年寄、御小人目附《おこびとめつけ》、寺社奉行、勘定奉行、町奉行と来て、これを四十八高という
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