裏口の隙間から覗《のぞ》いて見ましたんで声も聞きました――話も聞きました――アア、アア、草臥《くたび》れた」
「ナ、何がいるというのですい。これ幸吉どん、しっかりしなさい。いったい何者がどこにいるというのだ――」
崩《くず》れようとする幸吉を、長庵が抱《だ》くようにして訊《き》いた。何事か?――と出て来た数人の家来《けらい》達に取りまかれて、関取《せきとり》のように大きな山城守が、スックと立って幸吉を見下ろしていた。
すると、何者が、どこにいるのだ?――と叱るように長庵に訊かれて、糸のような細い声で幸吉がいったのだ。
「か、神尾――」
「な、何イ?」
山城守の顔がさっと変った。一同も打たれたように反《の》けぞって、ざわざわと幸吉のほうへ詰《つ》めよった。幸吉が言っていた。
「神尾――喬之助、というおさむらい――」
「うむ。その神尾喬之助は何処《いずく》におると申すのか。速《すみや》かに言えッ!」
山城守が叱咤《しった》した時、幸吉は、だんだんぐったりとなりながら、
「あっち――」
と右手を横に伸《の》ばしたかと思うと、だらしのないやつで、あんまり駈けつづけて来たので、そのまま
前へ
次へ
全308ページ中78ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング