》けて来る途中、屋敷の近くへ来てからこの雨にやられたとみえて、全身|濡《ぬ》れ鼠になって惨《みじ》めな幸吉のすがたが、おずおずしながら通されて来た。
が、おずおずして見えたのは、濡れた着物と、大所の武家やしきに慣《な》れない幸吉の態度だけで、幸吉の心もちは、ちっともおずおずしてはいなかった。おずおずするだけの余裕《よゆう》さえかれのこころにはなかった。何故なら、幸吉は、その部屋へ通されて、そこに山城守と一緒に思いがけなく村井長庵がいるのを見るや、長庵とはおやじの幸兵衛が交際《つきあ》っていて幸吉も識《し》っているので、山城守に挨拶することも忘れて、いきなり、長庵に獅噛《しが》みつくようにして言ったのだった。
「おお、長庵さん、お察し下さい。わたしゃ口惜《くや》しいのだ――あんな、あんな、お尋ね者に、お妙が心を寄せるなんて――」
「シッ、コレ、幸吉どん、ここをどこだと思う? 殿様の前ですぞ。そんなに取り乱して、一たい全体なにがどうしたと言うんです」
「あッ!」と幸吉は、はじめて山城守が眼に入ったように、「殿様! 御注進《ごちゅうしん》! 居ます! います! あの野郎が居ます! わたしは
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