良《こうら》屋敷だ。
その千代田城御書院番頭脇坂山城守のお上《かみ》やしき、奥まった書院である。
広い縁の向うに泉水《せんすい》の見える部屋だ。庭いっぱい、黄金《こがね》いろの液体のような日光が躍《おど》って、霜枯《しもが》れの草の葉が蒼穹《あおぞら》の色を映している。池の水面近く、所どころに緋鯉《ひごい》の群があつまっているのが、遠くから、うす桃いろにぼやけて[#「ぼやけて」に傍点]眺められるのだ。
脇坂山城守は、縁端《えんばた》近く脇息《きょうそく》をすすめて、客に対座している。山城守は、相撲《すもう》取りのように肥った人だ。動くと、脇息が重みに耐えてギシと鳴る。顔も、道具立てが大きくて、舞《ま》いの面のように見える。その上、表情というものが少しもないのだ。だから、作りつけのようで、長く見ていると誰でも薄気味の悪くなる顔だ。
その薄気味のわるい顔を、早く動かすと壊《こわ》れるおそれがあるとでもいうように、山城守はソウッと客のほうへ捻《ね》じ向けた。
退屈《たいくつ》し切ったような声だ。
「考えてはおる」と切って、「が、急には行くまい」
じろりと客を見た。
客は、四十二
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