んのしじゅうおっしゃる、嬉《うれ》しいきっぷ、こころ意気とやらいうものは、いったいどこにあるのでございましょう。鳥が逃げ場を失くして懐中《ふところ》へ飛び込んで来れば、猟師《りょうし》もその鳥を殺さないとかいうではありませんか。お父つぁん、しっかりして下さいよッ! 耄碌《もうろく》なさらないで下さいよ。これはあたしの、大事な人じゃアありませんか。厭ですねえ」
 一世一代のたんか[#「たんか」に傍点]だ。お妙は、町娘らしい何時もの内気《うちき》さをスッパリ忘れたように、こう言い切って、きッ! と父親を見上げた。壁辰と喬之助は、呆然《ぼうぜん》として立っている。
 裏の人影――それは、何時の間にか来ていた筆屋の若旦那幸吉である。彼は、久しい以前から、このお妙を口説《くど》きつづけて来たのだが、いまそのお妙がお尋ね者の神尾喬之助を恋している!――と聞くと、かれはさっ[#「さっ」に傍点]と身を翻《ひるが》えして、おもて通りへ駈《か》け出たのだった。
 どこへ行く気? 御書院番頭脇坂山城守の屋敷へ注進《ちゅうしん》に。

   喧嘩渡世《けんかとせい》

      一

 市ヶ谷やきもち坂の甲
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