た羽子《はね》が、ヒョイと壁辰の襟首《えりくび》に落ちた。女の児が追っかけて来て噪《さわ》ぎ立てる。壁辰は、にっこり掴み取って、投げ返した。
紺の腹掛け※[#「ころもへん+昆」、345−上−1]襦《ぱっち》に粋《いき》な滝縞《たきじま》を重ね――苦《にが》み走って、いい親方ぶりだ。
黒門町。自宅の前。格子を開けようとして覗《のぞ》くと、見|慣《な》れない麻裏《あさうら》が一足、かれの帰りを待ち顔に並んでいる。
二
じろり――茶の間に待っている客を横眼に白眼《にら》んで、奥へ通ろうとした。が、その時、ふと壁辰の胸底《むね》を走り過ぎたものがあって、彼は、どきり[#「どきり」に傍点]とした。思わず、足が停まった。客は室内、壁辰は茶の間のそとの細《ほそ》廊下――だが、顔が合った。無言である。面と向って、立った。
職人風の若い男――神尾喬之助を、壁辰は、どこかで見たような気がしたのだ。見たような顔! 見たような顔!――咄嗟《とっさ》に、眼まぐるしい思案が、壁辰の頭脳《あたま》を駈《か》けめぐった。と! 思い出した! ぴイン! と来たものがある。そうだ! この元日に西丸御
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