ん日はおめでとうございます。何ともはや、お盛んなことで――いえね、大した評判《ひょうばん》でございますぜ。今度の筆屋さんの御普請《ごふしん》と来た日にゃアほんとに、追従《ついしょう》じゃアございません、へい、三井さんや鴻《こう》ノ池さんでも、こう申しちゃア何ですが、あんな豪勢な真似《まね》は出来めえ、なアんてね、へっへ、江戸中の職人衆のとり沙汰《ざた》でございますよ。へい」
なんかと言うのを、幸兵衛父子は、軽く左右に受け流しながら、それでも、流石《さすが》に嬉しそうににこにこ[#「にこにこ」に傍点]している。
人混みを潜《くぐ》って、壁辰も幸兵衛に挨拶したのち、酒や餅にそれぞれ喰らいついて離れようともしない弟子達はそのまま残して置いて、ひとり筆屋の店を出た。
振舞い酒に好い気持になった連中が、向うから来る廻礼の[#「廻礼の」は底本では「廻体の」]女なんかをひやか[#「ひやか」に傍点]しながら、木遣《きや》りの声を張り揚げて流してゆく。
明るい日光が街にみなぎって、門松の影がゆらゆら[#「ゆらゆら」に傍点]と燃えているように見える。
きちがい陽気――。
どこからか外れ飛んで来
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