るのだ。
 勿論、自分は知らないのだろう。
 誰だって、うしろに眼がないから、背中には何を書かれたってわかりっこない。
「頼もう、お頼み申す」まだやっている。
 背中に「亡者」の貼紙をしょった妙見勝三郎……不気味な夜の訪問者である。
 が、聞えないのか、奥からは誰も出て来ない。
 その奥の座敷では、造酒が、お妙を仲に長庵と対座《たいざ》して、「此娘《これ》が、脇坂殿よりお話のあった――」
「さようでございます。これがその、例の……」
 喬之助妻園絵という事を口に出しては、お妙が、そうではない。自分は――と言い出すにきまっているから、どうせあとで知れることではあるが、今は何とかこのまま押しつけて終《しま》わなければならない。
 曖昧《あいまい》な事を言って誤魔化《ごまか》してしまおうとするのだが、造酒は、テッキリ園絵とばかり思いこんでいるので、深く追究もない。
 ただお妙だけは、不思議なところへつれて来られて、それに自分についてさっぱり訳のわからないことを言いあっているようだが……と、少からず警戒《けいかい》の心が動いている。
 が、それでもまだ長庵を信じているので、黙って、うつむいて控
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