えていると、さっき台所へ酒を取りに行ったお六が帰って来て、はいってこようとして障子のあいだから覗《のぞ》き込んだ。
そして、長庵と顔が合って、あッ! と両方が驚いた拍子に、お六の手から銚子《ちょうし》が辷《すべ》り落ちて、……途端に、あわただしい跫音《あしおと》が廊下を飛んで来た。
先刻の門弟である。
「先生、お玄関に、屍骸《しがい》が――首のない屍骸が……来て見て下さい!」
「何ッ!」
畳を蹴《け》って突っ立った神保造酒、流石《さすが》は剣士、何時の間にか大刀を右手に部屋を走り出る、とプウーン! と鼻をつく線香のにおいが、どこからか香《にお》って来ている。
見ると、隣室である。
そこは書院だ。床の間のまえに、経机《きょうづくえ》が一|脚《きゃく》置《お》いてある。
その上に首――妙見勝三郎の首、たった今玄関で呶鳴っていた妙見勝三郎の首……その首が、紙片《かみきれ》をくわえている。
紙には、十番首と大きく書いてあるのだ。そして、机の前に煙草盆《たばこぼん》を置いて、それに線香が立ててある。
紫のけむりがユラユラと――首供養《くびくよう》。造酒は、首を白眼《にら》んで、ウ
前へ
次へ
全308ページ中287ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング