ころと横地半九郎の膝の方へ転がって行った。真《ま》っ赤《か》な南瓜《かぼちゃ》のような物で、一面に毛で覆《おお》われている。博多弓之丞が、その乱髪に手をかけて掴み上げた。ぶら提《さ》げてみると、一眼でわかった。首だ、人間の生首《なまくび》だ。今まで生きて饒舌《しゃべ》っていて、勢いよく部屋を出て行った戸部近江之介の首級《くび》だ。
七
「あの、もう直《じ》きお父《とっ》つぁんが帰って参りましょうから、どうぞ御ゆっくりお待ちなすって――」
お妙は、客へこう言いながら、長火鉢の埋《うも》れ火を掻き起した。そうして、火箸を扱いながら、ちら[#「ちら」に傍点]とその男を見た。
客は、若い男である。紺《こん》の※[#「ころもへん+昆」、342−上−8]襠《ぱっち》を穿《は》いた膝をきちん[#「きちん」に傍点]と揃えて、窮屈そうに、長火鉢の横にすわっている。お妙は、自分だけしかいない時に、見知らぬ男の訪客を家へ上げたことが、何だか後悔されて来て、何の用だか知らないが、早くお父つぁんが帰って来てくれればいいと思いながら、炭を足し終ると、急いで茶の間を出て、台所へ来て一人ぽつねんと
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