来て、ふっと気味の悪い沈黙の種となった。何だか、あの喬之助を見損《みそこな》っていたようにも考えられるのである。悪かったかな――かすかに、そんな気もした。
 で、大迫が、また喬之助を会話《はなし》へ持ち出して来て、
「笑いおったな。あいつめ。気《き》が狂《ふ》れたように笑いおった。拙者も、いささかぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]として、髷を持つ手を離してしもうた。いや、豪胆な笑いじゃったぞ」
「何の、豪胆なことがあるものか。大迫氏は御自身を台に判断して、あの卑怯者を買い被《かぶ》っておらるる」
「そうかな」
「そうとも。たといかの柔弱男子が悲憤慷慨《ひふんこうがい》したところで、畢竟《ひっきよう》人形の泪《なみだ》じゃわい。何ごとが出来るものか」
 荒木陽一郎が、請《う》け合うように、こう言い切った時だった。
 部屋の横手に、お庭に面して窓がある。
 閉《た》て切った障子越しに、寒ざむしい白い陽《ひ》ざしが覗いていた。その障子が、何者かの手によってぱッと戸外《そと》から開けられたかと思うと、そこから、円い大きな物が一つ、すうウッと尾を引いて飛んで来て、どさり一同の座談の真ん中へ落ちた。ころ
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