に追っかけられたって、その悪ものはどこにいるのさ」
「いえ、あの、ちょうどそこまで参りますと――」
 気も顛倒《てんとう》しているらしく、おどおどしているお妙に、知らずのお絃は、つづけさまに舌打ちをした。
「チッ! 何だろうねエまア焦《じ》れったい。あたしゃ気が短い性《たち》でね、ハキハキおしよ。お前さん、ちょうどそこまで参りますとッて、毎日毎晩、やたらにちょうどそこまで参ってるようじゃないか。いったいどこなの家《うち》は?」
 お絃姐御にポンポンやられて、お妙は一層オロオロしながら、
「はい。わたくしは下谷の黒門町の……」
 言いかけた拍子に、ガラリ格子をあけて、頬かむりの顔を差し入れたのは、村井長庵の一の子分――一の子分二の子分といっても、こいつ一人きりだが、とにかく戸塚の三次である。
 藍微塵か何かに唐棧《とうざん》の半纏《はんてん》を引っかけて、鼻のさきに手ぬぐいを結んでいる。あまり好い人相ではない。
「今晩は」
 今夜はいやに妙な人間が飛びこんでくる晩だと思いながら、相手がばかに慣れなれしいから、お絃も、何か喧嘩出入りのことであろう。それなら、喧嘩渡世であってみれば大事なお客
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