っていうのさ……」
送《おく》り狼《おおかみ》
一
菊の間、雁の間、羽目の間――。
千代田の大奥には、硝子《びいどろ》を透かして見るような、澄明な秋の陽《ひ》がにおって、お長廊下《ながろうか》の隅すみに、水のような大気が凝《こ》って動かない。
どこからともなく、菊がにおっている。
にっぽん晴れ。
金梨地《きんなしじ》を見るような日光が、御縁、お窓のかたちなりに射しこんで、欄間《らんま》の彫刻《ほり》、金具《かなぐ》の葵《あおい》の御紋《ごもん》、襖の引手に垂れ下がるむらさきの房、ゆら、ゆらと陽の斑《ふ》を躍らす桧面《ひのきめん》の艶《つや》――漆《うるし》と木目《もくめ》を選びにえらび、数寄を凝らした城中の一部なので……。
ひっそりと、井戸の底のような静寂《しじま》だ。
と、突如、車輪《くるま》が砂利を噛むように、お廊下に沿った一部屋に、わらわらわらと人声が湧いて、
「いや、拙者も、何も強《た》ってとは申しませぬが、しかし、伊豆屋伍兵衛と申しまするは――」
「しかし……何じゃナ?」
大目附《おおめつけ》近藤相模守茂郷《こんどうさがみのかみしげさと
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