畳を蹴《け》り、喬之助に追いすがった。が、喬之助は、手早く障子をあけて、消えるように縁へ出る。と、同じ秒刻《びょうこく》に、反対側の、奥の間へ通ずる襖がサラリとあいた。声がした。
「おい、ここだ。ここだ」
 ギョッ! として振り返った一同の眼にうつったのは、やはり、神尾喬之助……。
 神出鬼没《しんしゅつきぼつ》という言葉があるが、これはまたどうしたというのだ!
 同じ人間が、出て行くと同時に、反対側から、はいって来る――。
 一同は、廻れ右をして奥へ斬尖《きっさき》を揃えながら、コソコソ顔を見合って、首を捻《ひね》った。

      四

 村井長庵は、ピシリ! と大きな音を立てて、裸の尻ッぺたを叩いた。赤い血が、小さな花のように咲いて、蚊の屍骸が一匹、押し葉のように潰れて貼りついていた。
 長庵は、舌打ちをして、蚊の屍体を摘《つま》み上げた。
「腹に縞《しま》がある。藪っ蚊だ。こいつは非道《ひで》えや」
 うす闇黒《やみ》の中で、ひとり言をいった。言いながら、医者だけにクスリと笑って、
「藪のところへ、藪ッ蚊とは、この野郎、洒落《しゃれ》たやつじゃアねえか」
 つまらないことに感
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