行って、それで気が付いたのである。
 その、今まで評議《ひょうぎ》をしていた末席に、ジッと畳に両手を突いて、平家|蟹《がに》のように平伏したきり動かない人物がある。
 いつの間に来たのか、それとも、初めからこの部屋にいたのか、どうして今まで気がつかなかったろう?
「ウム! 誰だ、これは……」源助町三羽烏の随一、大矢内修理が、唸《うな》った。「何者じゃ?」
「御同役のお一人かな?」
 穏《おだや》かに口をきいて、同じく源助町の天童利根太郎が、番士達をふり返ったが、誰も答えるものはない。
 部屋の一方にズラリと立ち並んで、不気味《ぶきみ》な生物でも見るように、その一個の人物に眼を据えていると――。
 畳に手を突いて動かない姿……裃《かみしも》こそきていないが、あの元日、御番部屋でそうして嘲弄《ちょうろう》を受けていた神尾喬之助と、その位置、その態度、寸分違わないのだ。その、微動だもしない伏像《ふくぞう》に対して、一同は、眼を見張ったが、こういうと長いようだけれど、ほんの二秒、三秒……五秒とは経たないうちに大声をあげた荒木陽一郎だ。この人は、荒木又右衛門《あらきまたえもん》一門の血統で、流石
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