人物がある。どうして今まで、誰も気がつかなかったろう? 畳に手を突いて動かない姿……裃《かみしも》こそ着ていないが、あの元日、番部屋《ばんべや》でそうして嘲弄《ちょうろう》を受けていた神尾喬之助の態度と、寸分違わないではないか。その微動《びどう》だもしない伏像《ふくぞう》に対して、一同は、声もなく眼を見張った。
影《かげ》と影《かげ》二|人法師《にんほうし》
一
「ややッ! ここにおる! ほら! ここに居るぞ何者か……」
叫び揚げたのは、博多弓之丞だ。背後《うしろ》へ拡げた両手は、空気を押えるような手つきだ。そのまま、ザザザッ! 畳をならして蹣跚《よろめ》き退《さが》った。
池上新六郎、山路重之進、飯能主馬、横地半九郎、妙見勝三郎……等、合計十三名の御書院番士と、源助町の助軍一統、思わず、ぱッ! 潮の引くよう、起ち上っていた。
本郷、うなぎ畷《なわて》――長岡頼母の屋敷である。喬之助討取り方|評定《ひょうじょう》の最中に。
あるじ頼母の発見した忌中札、その字がまだ濡れているというので、一同が頼母を取り囲んでわいわい言っている時、誰ともなく、つと末席に眼が
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