こらで根から抜いて土のついてる六尺ほどの若木を獲物《えもの》に渡り合うのにも、その疾風迅雷的《しっぷうじんらいてき》なのにかなり悩まされたのみか、そればかりではなく、女遊人《おんなあそびにん》みたいなのが一枚加わっていて、こいつがまた剣輪に包囲されながら、石を投げる、土をぶつける、恐ろしく邪魔になって犇《ひし》めくばかりでそのうちに一人ふたり、味方の中から喬之助の手に掛る者が出て来る。夜が明ければ五月蠅《うるさ》いと焦立《いらだ》っているところへ、騒ぎを聞いて駈けつけて来た御用提灯の灯が点々と――これは、それとなく喧嘩を割って、喬之助を救おうという、金山寺屋音松の率《ひき》いる手勢《てぜい》であった。
 金山寺屋音松、何が故に外ながら喬之助を援助するがごとき態度に出るのか、あの壁辰の家で、与力満谷剣之助の前でわざと喬之助を喧嘩渡世の茨右近と見誤《みあやま》り、そこへ匿《かくま》えと言わんばかりに教えたのも、この日本橋長谷川町の岡っ引き金山寺屋の音松ではなかったか。
 その朝の富士見の馬場でも。
 五十七人で三人を持て余しているところへ捕吏《とりて》の一隊が現れたので、これ幸いと、鏡丹波
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