が横地半九郎の家をおそったところが、源助町の道場から用心棒《ようじんぼう》が来ていて、そのうえ、一人はすぐに、もっと援兵を呼びに芝へ走り帰るのを自分は、右近について行っていて見届けたから、その足で迎いに来たのだという。皆まで聞かずに、喬之助は手慣《てな》れの剛刀を腰に四谷をさして駈《か》け出した。
 お絃、喬之助について直ちに引っ返すかと、思うとほかに用がある。もう一人、魚心堂先生を呼んで行きたいのだ。
 魚心堂先生。
 魚を追って歩くのだから、どこにいるとは限らないが、当時外神田に地蔵ヶ池という小さな池があって、当分はその辺にくらしているという先夜の話だったから、お絃がそこへ駈けつけてみると、なるほど、池の上に枝を張り出した一本の大樹がある、その枝に跨《また》がって、魚心堂先生に昼夜の別はない、夜中だというのに、いま悠々《ゆうゆう》と糸を垂れていらっしゃる。この間の晩、右近の髪に釣針を引っかけて糸引きになったあと、三人でこの池畔《ちはん》へ来て、色いろと話があり、喬之助の事件も打ちあけていざという場合には手を借りることになっているのだから、お絃は地蔵ヶ池へ飛んで行って、魚心堂が鳥みた
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