身が、羽振《はぶ》りがいいといったところで、要するに巷《ちまた》の一剣術使い、神保造酒|風情《ふぜい》に、背に腹は換えられない、ペコペコでもないが、この通り、さっきからかなり頭を下げてお願い申すを繰り返しているんだが……。
だいたいこの神保先生は、幕府の役人がいばりくさるのを、ふだんから心憎く思っている。ことに今夜、駕《が》を抂《ま》げたぞと言わんばかりに、こうしてやって来たのが、今いった政府の文書課長。自分は浪人言わば失業者の大将みたいなものだから、はじめッから少々|頭《つむじ》が曲《まが》っている。もっとも、人を斬ったり首を落したりする物騒なことは、三度の飯より好きで、三十年来そんな事ばかりやって来て、それがまた今日あるゆえんの神保造酒、もとより嫌いな話ではない。ほんとを言えば、早速引き請けちまいたいんだが、それでは貫目が下がるとでも思っているのか、すこし焦《じ》らしてやれ――意地悪も手つだって、すったもんだ、なかなか諾《うん》と言わないから、山城守は引っ込みがつかないで往生している。
もともと職権をかさ[#「かさ」に傍点]に命じ得る仕事でもなければ、相手でもない。が、こうして
前へ
次へ
全308ページ中200ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング