城守が、パラリ、パラリ、前後左右に撥《は》ねるように風呂敷を解いてゆくと、箱が出て来た。木の箱だ。蓋《ふた》がしてあった。軽く蓋を持上げて内容《なか》を一|瞥《べつ》した。と! ガッパと蓋を叩き置いて、
「むッ!」
 おめい[#「おめい」に傍点]たのだ。同時に、
「筆屋ッ! 筆屋の者を呼べッ! コ、これは、猪股《いのまた》――ッ!」
 起ちかけた。座蒲団が辷《すべ》って、箱を倒した。ゴロゴロと転がり出たのは、かッと眼を見ひらいて散髪《ちりがみ》をくわえた人間の首だ。
 またもや御書院番士の一人、猪股小膳である。三番首だ。
「ウウウム……」
 片手をかざした山城守は、どどどッと部屋隅へよろめき後退《さが》った。ドウン! 襖にぶつかって、襖が倒れた。一弥は、鞠《まり》のように円くなって、小刻みの足を廊下に飛ばせて御用部屋へ走っていた。

      八

 江戸の辻々に、瓦版《かわらばん》の読売りが飛んだ。
 一番首、二番首、三番首……お書役の首が、片ッ端から落ちて行く。
 役人、会社員などのサラリーマンが首になるという、その首なる用語の起源は、遠くこの時に発しているのだ――と、江都耳寄草
前へ 次へ
全308ページ中182ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング