ているものは、一見|膳部《ぜんぶ》のような箱だが、これは膳にして膳に非《あら》ず。なるほど箱の中には高脚《たかあし》つきの膳が入っていて、膳の上に吸物、さしみ、口取り、その他種々の材料をはじめ庖丁|俎板《まないた》まで仕込んである。花月《かげつ》の夜《よ》、雨雪風流《うせつふうりゅう》の窓《まど》にこれをひらいて、たちまち座を賑わそうというのだが、これは膳の上のはなしで、その膳の下には、いつどこで開いてもたちまち座を賑わすに足る、小判の山がうず高く積んであろうという、膳の上よりも膳の下が目的《めあて》ということは、贈るほうも贈られる方も、不言不語《いわずかたらず》、ズンと飲み込んでいるのだから、誠に重宝《ちょうほう》な品物で……。
幸吉と定公。
そいつを萌黄《もえぎ》の風呂敷包にしてここまで持って来て、もう脇坂様のおやしきは眼の前だからと、こうして馬場下の茶店に腰を下ろし、茶を飲む。菓子を摘《つま》む。定公なんか、
「茶腹《ちゃばら》も一とき、アアもうダブダブになっちゃった」
というさわぎだ。
あらたに油渡世をもはじめたについては、伊豆伍を蹴落して、御書院番頭脇坂山城守さまのお
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