ごとく身じろぎもしない。
「特製の頭だな。名は何というか」
 男が感心した。
「茨右近」
「ナニ、茨右近? 喧嘩渡世の茨右近か」
「さようでござる。して、おん身《み》は?」
「吾輩か。吾輩は魚心堂《ぎょしんどう》じゃ」
「ほウ、あの、いたるところ釣りをして歩いて巷に道を説くという、今評判の魚心堂先生でござったか」
「そうじゃ、その傑《えら》い先生の魚心堂である。どうだ、降参するかナ」
「何の、朝まででも綱引《つなびき》だッ! 来いッ」
「こいつが、此奴が――よし、やろう!」
 どっちも強情我慢の変物同士《へんぶつどうし》だ。曳《えい》ッ! うむ! 喧嘩右近と魚心堂先生、一進一退、三|更《こう》の街上に不思議な綱引きをつづけている。
 知らずのお絃は、あきれ返って見物しながら、呑気なもので、応援団だ。
 フレイフレイ右近! そんなことは言わない。
「ソラ、お前さん、しっかり!」

      六

「どうだ、定公《さだこう》、ここでちょっと休んで行こうか」
「そうですね。それがようございますよ。若旦那――これからお屋敷へ上ったって、脇坂様は名打《なう》てのけちん[#「けちん」に傍点]坊だ
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