寄せようとする。
「怒るな、怒るな」男が言った。太い、しずかな声だ。「ちょいと夜釣りと洒落《しゃれ》たのだ」
 が、右近は無言。両手を腰に[#「両手を腰に」は底本では「両手に腰を」]、グッと頭を反らして、かみの毛にひっ掛った糸でそのまま相手を引きずりよせようとした。
 ほがらかな男の笑いが、深夜の巷《まち》にひびいた。
「ウム、どうやら呑舟《どんしゅう》の大魚が掛ったようだぞ。こりゃ面白い。頭で綱引《つなび》きと来るか」
 自分も、竿を構《かま》えて、足を踏ん張る。あたまと手の綱引き……じゃアない、糸引きだ。両々相下《りょうりょうあいくだ》らない。見ていては面白いが、がっくり前へ寝た右近の髷《まげ》が、今にも脱けそうだ。どんなに痛いことだろう。つまらない我慢をしてゴッソリ丸坊主になったらどうしよう――と、お絃は一人で気を揉《も》んでいる。
 ひっ張り合いながら、会話になった。
「小僧ッ、痛くはないか」
「何をッ! 釣れるものなら、釣ってみろ」
「てエッ! 強情なッ! こうだッ」
 男は、力を罩《こ》めて竿を引く。うム! と踏みこたえた右近、大地から生《は》えたよう、磐石《ばんじゃく》の
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