眠っていた。
 ハッキリ眼がさめると同時に、悪戯《いたずら》か、害心《がいしん》か、この夜ふけに、そも何やつのしわざ? と、ぷッ! 一時に怒りを発した茨右近だ。頭上にかざした手へ釣糸を捲《ま》き手繰《たぐ》って、パアッ! 起ち上った。
「誰だッ! 出て来いッ!」
 叫《さけ》ぶ。その声で眼をさましたお絃が、
「火事かい……あら厭《いや》だ。何をお前さん、ひとりで威張《いば》っているの」
 迂路《うろ》うろそこらを見廻したが、
「あ! 何だい、あれは――?」
 指さした。そこに、闇黒《やみ》の奥からノソリ、ノソリと近づいて来ている一人の人物。
 夜光を背にしてよくは見えないが、つんつるてんの紺飛白《こんがすり》に白い兵児《へこ》帯を太く巻いて、後世の英傑西郷先生の元祖みたいな風体《いでたち》だ。髪は、戦国風の太茶筌《ふとちゃせん》。釣竿を差し伸べて片手に魚籠《びく》を提《さ》げている。実もって異形《いぎょう》な大男なので。
「げッ! 何だ手前はッ!」
 頭の釣針を取ろうとするが、すっかり髪に絡みこんでいて容易に取れない。焦立《いらだ》った右近、タタタとあとへ下って、頭で糸を引いて男を引き
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