す、へえ」
それには答えず、知らずのお絃が、
「ああ泣いちゃった……」
はいこんで、バラリ垂れを下ろすと、行くぜ! あい来た、で三梃、トットと神田へ帰って来た帯屋小路――よろず喧嘩買入申候の看板に、御神燈《ごしんとう》の灯が、ゆらゆらと照り映《は》えている。
四
喧嘩渡世の家の壁に、長ながと貼り出してある一枚の巻紙、ズラリ十七人の番士の名が書いてある。その中の二つ、大迫玄蕃《おおせこげんば》と浅香慶之助《あさかけいのすけ》のところへ、いま二人を首にして帰って来た神尾喬之助が、墨くろぐろと抹殺線《まっさつせん》を引いて、下に、一番首二番首と書き入れを済まし、さて、このつぎの三番首は誰にしたものであろうか……まことに不気味な順番で、ひそかに候補にあげられる者こそ災難だが、喬之助が、端《はし》から名前を黙読しながら、アイツにしようかコイツにしようかと思案しているところへおもてに三梃の駕籠が止まって、その一つから園絵が下りた。
元日以来会わずに来た、恋し恋された若夫婦である。二人のおどろき、よろこび、その後の物語、昔の作者なら、ここんところは、読む者よろしく推量あるべし
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