た茨右近が、
「おい、お絃、それじゃアおめえ、御新《ごしん》さんに、何の用事だかわからねえじゃアねえか」
「そうかい」ふり返って、「あたしゃまだ話さなかったかしら」
「何にも言やアしねえやな。だから見ナ。御新さんは狐《きつね》につままれたってエ顔つきだ。ハハハハハ」
「アレサ、そうだったかい。気の早い人だねエ」
「何を言やアがる。どっちが気が早えんだ。シッカリ申し上げな」
 女がうしろを向いて何かしきりに饒舌《しゃべ》っているから、園絵は一そう怪訝《けげん》に思って、
「どなたかそこにいらっしゃるのでございますか?」
「アイ。いまお風呂を覗《のぞ》いた人」
「あッ、あの、喬之助さまが……」ひェイッ! と愕《おどろ》くと同時に、木戸を押しあける間も焦《もど》かしく、園絵は、お絃を突きのけるように背後《うしろ》の駕籠へ駈け寄って、「喬さまッ! 喬さまッ! 喬さまはどのお駕籠に……?」

      三

 同居人の喬之助の口から、妻の園絵への思いを聞かされた喧嘩屋夫婦の右近とお絃は、粋《いき》な人間だけに察しがいい。園絵をこっそり帯屋小路の家へつれて来て、久しぶりに喬之助に会わせてやろうと
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